UXリサーチ入門 #04

実態把握と思考理解の組み合わせ。

「UXリサーチ入門」最終回は、ユーザー行動の実態を把握するためのデータエスノグラフィと、その行動に至る思考を理解するためのアンケートインタビューを組み合わせたクロスリサーチについて、その意味と進め方の解説をしたいと思います。

UXリサーチは、ユーザーの行動や体験の実態把握またそれに至る思考の理解を目的としますが、それには観察というアプローチが有効であること、そしてその調査手法がエスノグラフィであることを、前回の「UXリサーチ入門 #03」にて説明しました。

一方で、「UXリサーチ入門 #01」でも触れたとおり、モバイルアプリのアクセスログや店舗での購買履歴など、あらゆるユーザー行動がデータ化されており、今後は5GやIoTの普及により、生体データや撮影データなどが集約され、さらにビッグデータ化されていくことが想像されます。これらの行動データを、ユーザー行動の実態把握に活用したいと考えるのは当然のことでしょう。

一人ひとりの行動データをミクロ視点で観察し、時系列に追うことで、ユーザーの意思決定プロセスの理解や発見が進むことがあります。クロスハックではこれをデータエスノグラフィ(Data Ethnography)1)データエスノグラフィって?と呼んでおり、「データエスノグラフィ入門」でその実践方法を紹介しました。一方で、「データエスノグラフィって?」でも触れたとおり、行動データの観察や分析には欠点があります。それは、行動は思考の結果にすぎず、なぜその行動に至ったかの思考を理解することができないという点です。

そこで、データエスノグラフィで捉えたユーザー行動の実態をもとに、行動に至る思考のプロセスを、本人あるいは近い行動経験や特性をもつモニターにアンケートやインタビューで聞くという組み合わせの調査が必要になります。クロスハックではこれをクロスリサーチ(Cross Research)と呼んでいます。

DMPとモニターをつなぐ。

行動に至る思考を理解するには、本人に聞けばよく、エスノグラフィではモニターが行動したその瞬間に思考のプロセスを引き出すための質問を行うことができます。一方で、データエスノグラフィではそれができず、後追いで聞くことになりますが、それには観察した行動データの本人を特定してアンケートやインタビューを実施する必要があります。これを実現するプラットフォームに、DMPとモニターをつなぐ調査パネルがあります。

データ・マネジメント・プラットフォーム(Data Management Platform:DMP)は、ウェブサイトのアクセスログをはじめとするオンラインデータ、店舗での購買履歴をはじめとするオフラインデータなど、あらゆるデータを集約・管理し、分析結果に基づいて広告配信などのアクションにつなげるためのプラットフォームのことです。代表的なクラウドサービスにArm Treasure Data社が提供するArm Treasure Data eCDPがあります。

eCDPの特長のひとつに、さまざまな外部サービスとサードパーティークッキー(Third Party Cookie:TPC)でシームレスに連携が可能であるという点があります。クッキー(Cookie)とは、PCやスマートフォンのブラウザごとに一意に発行されるIDのことで、通常はウェブサイトごとに別々のIDが発行されますが、TPCは複数のウェブサイトで共通のIDとなるため、うまく活用すれば異なるサービス間で個人のブラウザを特定するIDを共有し、連携することが可能となります。

eCDPでは、このTPCを活用してさまざまな外部サービスとの連携を展開していますが、その中にD&M社の調査パネルがあります。この調査パネルのモニターであれば、eCDPに格納された行動データのTPCをキーに、そのまま本人にオンラインアンケートを行うことが可能となっています。

とはいえeCDPのような高機能なDMPを利用していることが前提となるため、多くの場合はこのようなシームレスな連携はできません。現実的にはもっとアナログなアプローチとなります。

近しいモニターへのインタビュー。

それは、データエスノグラフィで捉えた行動実態に近い行動経験や特性をもつモニターにアンケートやインタビューを実施するというものです。該当のモニターと出会うためにスクリーニング調査とよばれるアンケートを実施します。例えば、特定の商品の購買行動に関する調査であれば、購買頻度や場所、あるいは購買検討に利用したウェブサイトなどの行動特性が近いモニターを探し出すための設問や選択肢を用意することになります。また同時に、購買商品や利用したウェブサイトの印象を質問することで、行動に至る思考のプロセスの把握もある程度は可能です。

スクリーニング調査のプロセスで、近い行動経験や特性をもつモニターが見つかれば、そのモニターにインタビューを実施することができます。また、思考のプロセスもある程度把握できるため、インタビューで深掘りしたいモニターの選定や、質問項目の設計に活用することも可能です。

なお「UXリサーチ入門 #02」で触れたとおり、UXリサーチにおけるアンケートは定性調査の役割を担うことが多く、その実施目的には、インタビューの事前のスクリーニング調査と行動データ分析の補完としての行動に至った思考の事後把握の二つがありますが、クロスリサーチにおけるアンケートはこの二つの目的を同時に満たしつつ、データエスノグラフィとデプスインタビューをつなぐ役割を担うことになります。

このようにクロスリサーチは、ビッグデータ化する行動データを活用したユーザー行動の実態把握の有効な手法であるデータエスノグラフィを実施しつつ、その欠点をアンケートインタビューで補完して思考の理解につなげる調査手法であり、ビッグデータ活用の推進にともなって需要が拡大するのではないかと考えています。

脚注   [ + ]