データジャケットって?

データの「ジャケット」。

2019年3月20日、データジャケットプラットフォームが一般公開されました。誰でもデータジャケットの検索ができ、会員になれば投稿が可能となります。また、データジャケットをベースとしたイノベーションゲームであるIMDJのオンライン版のWeb IMDJを利用することもできます。

出典:東京大学 大澤研究室

データジャケット(Data Jacket)は、データの「ジャケット」のことで、データそのものではなく、メタ情報(概要情報)を公開することで、データの持つ価値を共有し、イノベーションの創発につなげるためのフレームワークです。CDのジャケットが、実際の音楽を聴かずとも、どんなアーティストで、どんな曲が収録されているかを伝える役割を持っているのと同様に、データジャケットもまた、データの中身を公開することなく、データの価値を伝える役割を持っています。もっとも最近では音楽配信が主流であるため、CDのジャケットと言われてもピンと来ない人もいるかもしれません。

データジャケットは東京大学の大澤幸生教授により提唱され、大澤研究室により開発されたものですが、その背景にはデータ流通(Data Trading)1)データ流通って?の課題があります。「データ流通って?」でも触れたとおり、データはヒト・モノ・カネなどの他の資源と同様に、流通しなければその価値を存分に発揮しません

また、人や企業がデータ流通を通してデータ取引(Data Exchange)を行う目的は大きく二つあり、ひとつは取引そのものが目的で、それにより価値や収益を獲得するというもの、もうひとつは異なるデータをかけ合わせて新しい価値を生み出すことが目的で、データ取引はその手段にすぎないというものです。

とりわけ後者は、データ駆動型イノベーション(Data-Driven Innovation)と呼ばれる、データを基軸としたイノベーションの創発には欠かせないものです。そして、どのデータをどのようにかけ合わせれば、どのような新しい価値や活用法につながるかのアイデアや議論が必要であり、そのための情報や環境が不可欠となります。その実現に向けて開発されたのがデータジャケットです。

主観的なレビュー情報。

ところで、データのメタ情報を管理する概念としては、データカタログ(Data Catalog)がより一般的です。もともとは企業内でのデータ資源の共有や検索を効率化することを目的としたもので、統制のための記述フォーマットや、メタ情報そのもの、あるいはそれらの管理ツールを指します。管理ツールの代表的なものに、GCP(Google Cloud Platform)のCloud Data Catalogや、AWS(Amazon Web Services)のGlue Data Catalogなどのクラウドサービスがあります。最近ではその概念がデータ流通やデータ取引の領域にも展開されており、オープンデータの記述フォーマットの策定などに利用されています。また、データ流通推進協議会(Data Trading Alliance:DTA)では「データカタログ作成ガイドライン」の取りまとめが進められています。

なおデータジャケットは、この「データカタログ作成ガイドライン」ではデータカタログのサブセットとして定義されており、同一の概念上にあるという側面があるものの、この二つには決定的な違いがあります。それは主観性客観性です。

データ取引には、取引そのものが目的の場合と、異なるデータをかけ合わせて新しい価値を生み出すことが目的の場合があると述べました。データカタログは主に前者での利用を想定したものであり、取引を公正かつ効率的に行うためには、データの中身を正確に伝える必要があるため、客観的な情報が重視されます。

一方で、データジャケットは主に後者での利用を想定したものであり、データのかけ合わせや活用法に関するアイデアが提供されることでイノベーションの創発が活性化されるため、データ紹介者による主観的な情報が重視されます。ECサイトで喩えるなら、メーカーや小売店による商品紹介情報がデータカタログであり、ユーザーによるレビュー情報がデータジャケットであると言えるでしょう。

データ駆動型イノベーションの創発。

データジャケットの目的は、データの持つ価値を共有し、イノベーションの創発につなげることにあります。それをゲーム型ワークショップにより実現するフレームワークがIMDJ(Innovators Marketplace on Data Jackets)です。

IMDJでは、参加者が提供するデータジャケットをかけ合わせて、問題解決のためのデータ活用アイデアを創発します。さらに有用なアイデアについては実現にむけた行動プランを創出し、その実現性を評価します。この一連のプロセスによりイノベーションを推進するわけです。また、IMDJを通して獲得したデータ活用アイデアは重要な主観情報としてデータジャケットに還元されます。

このIMDJをオンライン上で実現するプラットフォームがWeb IMDJであり、多数のステークホルダーが一箇所に集まる地理的コストを低減することが期待されます。とりわけ国をまたがるステークホルダー間でのイノベーションの創発には有効となるでしょう。

データジャケットならびにIMDJは、フレームワークやプラットフォームが整備され、これから普及に向けた推進がなされていく状況です。利用者や投稿されるデータジャケットの数が増えることでプラットフォームとしての価値が高まる、いわゆるネットワーク外部性が強く作用する領域であるため、今後の普及や発展が期待されます。

脚注   [ + ]