UXモデリング入門 #01

行動パターンを発見する。

ユーザーの行動データから、購買の意思決定プロセスを把握したい、あるいは、思いもよらないニーズを発見したい。多くのマーケターやビジネスパーソンにとって、それはデータ活用におけるもっとも重要な関心ごとのひとつでしょう。

あるコンテンツXの閲覧(事象X)と、ある商品Yの購買(事象Y)には、強い共起性があるから、事象Yの意思決定に事象Xがなんらか関与している可能性が高いのではないか。そのような分析はよく行われることと思います。

一方で、事象Xと事象Yの因果関係の説明は難しい問題です。事象Xによる気持ちの変化があったから事象Yにいたったのか、最初から事象Yが起こることは決まっていて、たまたま事象Xをしただけなのかが判別しづらいからです。

因果関係を説明するには、まず時間の関係を把握することが必要です。当たり前ですが、原因と結果の前後が入れ替わることはありません。また、事象Xと事象Yの間に大きな時間の隔たりがある場合は因果関係を説明しづらくなります。加えて、事象Xが事象Yの発生に影響を与えていることも重要です。事象Xの有無に関わらず事象Yが起こるのであれば、因果関係は説明しづらくなります。

ユーザーの行動の因果関係を把握し、意思決定プロセスを理解するのに、一人ひとりの行動データをミクロ視点で観察し、時系列に追うデータエスノグラフィ(Data Ethnography)1)データエスノグラフィって?という手法が有用であることは「データエスノグラフィって?」でも触れたとおりです。とはいえ、大量のデータから観察すべきユーザーを特定し、典型的な行動パターンを見つけることは容易ではありません。

シンプルな行動モデルを取り出す。

そこで、大量のデータからユーザーの行動モデルを機械的に取り出す手法が有効となります。クロスハックではこれをUXモデリング(UX Modeling)2)UXモデリングって?と呼んでいます。

大量データをモデリングする手法として真っ先に思いつくのは、機械学習(Machine Learning)3)いまさら聞けない機械学習でしょう。とりわけ深層学習(Deep Learning)4)いまさら聞けない深層学習は、特徴表現を自動的に行うため、大量データのモデリングには極めて有効です。

一方で、「UXモデリングって?」でも触れたとおり、深層学習には導出されたモデルが複雑化・ブラックボックス化するという欠点があります。複雑でブラックボックス化されたモデルは、解釈や説明ができません。解釈や説明ができないモデルは、ビジネスやデザインの意思決定に応用することができず、役に立ちません。UXモデリングでは、複雑なユーザー行動から解釈や説明をしやすいシンプルで汎用性のあるモデルを取り出すことが重要です。

時系列のアソシエーション分析。

ユーザーの行動データから行動パターンを取り出す手法の一つに、アソシエーション分析があります。アソシエーション分析(Association Analysis)5)アソシエーション分析入門は、事象Xと事象Yの事象間の相関性を分析する手法で、データマイニング(Data Mining)6)再考するデータマイニングの中核をなす分析手法のひとつです。

アソシエーション分析の詳細は「アソシエーション分析入門」に譲りますが、簡単に言うと、それにより得られるのは向きのある相関関係です。向きのある相関関係とは、例えば「商品Xを購買した顧客は商品Yも購買している」というようなものです。ただし、これはあくまで相関関係であり、因果関係を証明するものではありません。しかしながら、これをきっかけに因果推論(Causal Inference)7)いまさら聞けない因果推論ベイズ推定(Bayesian Inference)8)いまさら聞けないベイズ推定などを行うことで因果関係を明らかにする可能性が高まります。

ところで、アソシエーション分析は事象間の相関性を分析する手法の総称であり、特定の分析手法をさすものではありません。共起性に基づく分析手法が一般的ですが、他にもニューラルネットワーク(Neural Network)などを用いたアプローチもあります。また、共起性に基づく手法の中でも最もよく利用されるものにアプリオリ(Apriori)というアルゴリズムがあります。「アソシエーション分析入門」では、このアプリオリ・アルゴリズムを使った分析方法を解説しました。

一方で、アプリオリ・アルゴリズムを中心とした一般的なアソシエーション分析では、時間の関係が無視されます。例えば「商品Xを購買した顧客は商品Yも購買している」というのは、時系列的に商品Xと商品Yのどちらが先かは問われず、また商品Xと商品Yの購買の時間間隔も考慮されていません。

冒頭でも述べたとおり、因果関係の説明には時系列的順序や時間間隔といった時間の関係が極めて重要な要素となります。また、時間の関係がわからないと、次に発生するユーザー行動を予測することができません。そこで、時間の概念を考慮したアソシエーション分析が必要となります。それを系列パターンマイニング(Sequential Pattern Mining:SPM)といいます。

そこで、この「UXモデリング入門」では、UXモデリングの比較的簡単なアプローチのひとつとして、このSPMを用いた手法をご紹介します。次回以降で、その具体的なプロセスに触れて行きます。

脚注   [ + ]