再考する情報設計

探しやすさと出会いやすさ。

情報設計(Information Architecture:IA)とは、情報の検索性と発見性を高めるために、情報や知識を組織化する技術や手法のことです。検索性(Findability)は、顕在的な要求に対する情報の探しやすさのことで、たとえば母の日ギフトとして「花」を探している人が、「母の日、花」などのキーワードを頼りにイメージしている花を探し出すことができるかどうかのことをいいます。一方で発見性(Discoverability)は、潜在的な要求に対する情報の出会いやすさのことで、たとえば母の日ギフトとして例年とは違う「何か」を贈りたいと考えている際に、「紅茶」などの新しい選択肢への気づきも含めて、ぴったりな贈り物に巡り会えるかどうかのことをいいます。

インターネットの普及やデジタル化により、情報の接点や流通量は飛躍的に増加し、人が本来持っている探索能力だけでは情報取得が困難になっています。この問題に対し、IAの始祖といわれる建築家のリチャード・ソウル・ワーマンは1997年の著書「Information Architects」(訳:情報アーキテクト)で、それを解決する職業として、情報アーキテクト(Information Architect:IA)を以下のように定義しています。

  • データの持っているパターンを整理し、複雑なものを明快にする人
  • 人が知識への経路を見つけるための情報の構造や経路をつくる人
  • 時代の要請により21世紀に新しく生まれつつある、明快さ・理解・情報の組織化を専門とした職業

筆者自身も2005年から情報アーキテクトとして、数多くのウェブサイトの設計に関わって来ましたが、当時はWeb 2.0という言葉が流行しており、企業と個人の関係が、従来の単方向から双方向となり、Amazon.comのカスタマーレビューに代表されるように、誰しもが情報の受信者でもあり発信者でもある状態へと変化を遂げた時代でした。その後、SNSの普及によりその流れは加速し、スマートフォンの普及により情報のやりとりは場所を選ばなくなりました。

本日2019年5月1日から令和が始まり、2019年は令和元年となりますが、5G・IoT元年になるとも言われています。これらの普及は、情報設計のあり方も大きく変えるに違いありません。そこで、これまでの変化を振り返りながら、5G・IoT時代の情報設計について考えてみたいと思います。

SNSとスマートフォンによる変化。

インターネットやウェブが普及した1990年代は文献検索が主な用途でした。情報設計には、図書館学(Library Sicence)を起源とする考え方や手法が多いのですが、まさに大量の文献から関心に合うものを探し出すためのものだったと言えます。図書館では本をカテゴリ(Category)で分類・階層化し、上位から下位にたどることで目的の本にたどりつけるようにする考え方が一般的です。例えば「世界史を大きく動かした植物」という本であれば「科学植物学」というカテゴリであることが共通理解としてあるため、その棚に配置すれば探し出すことができます。このような構造をツリー構造(Tree Structure)といいます。

一方で「世界史を大きく動かした植物」は、その名のとおり植物に着目した世界史の本でもあるため「歴史世界史」で探す人もいるでしょう。このように複数カテゴリにまたがる本の場合、二冊あれば「植物学」「世界史」それぞれの棚に配置することができますが、多くの図書館ではそうはいきません。しかしながら情報は実体を持たないため、一意のカテゴリではなく、「植物学」「世界史」という二つのタグ(Tag)を付与し、双方に紐づく構造にすることが可能です。このような構造を、タグを軸に情報がリンクすることから、ハブ構造(Hub Structure)といいます。なお「パターンランゲージって?」でも触れた、建築や都市計画の領域でいうセミラティス構造(Semi Lattice Structure)1)パターンランゲージって?と同じ概念です。

2000年代に入り、前述のとおり、情報は企業やジャーナリストのみから発信される単方向で静的なものではなく、誰もが受信者であり発信者でもある双方向(Interactive)動的(Dynamic)なものへと変化しました。さらにFacebookなどのSNSの普及によりその流れは加速します。また、スマートフォンの普及により情報のやりとりは場所を選ばなくなりました。スターバックスで新しいフラペチーノが発売されると、即座にスマートフォンで撮影され、Instagramで共有されます。

こうなると、もはや情報設計の存在意義が疑わしくなります。情報をどう組織化するかという意思決定が、一部の提供者によるものではなく、不特定多数の利用者に委ねられてしまうからです。とはいえ、SNSで発信されている情報の源泉の多くは、企業や一部のインフルエンサーによるものです。さきほどの新しいフラペチーノのInstagramでの共有も、スターバックスが提供している商品という形態の情報を横流しにしているにすぎません。であれば、源泉たる情報をうまく組織化すれば、検索性や発見性を高められる可能性があります。つまり不要になったのは、情報設計そのものではなく、従来型の情報設計ということになります。

では、SNS・スマートフォン時代の情報設計とはどのようなものでしょうか。ポイントは以下の三つです。

  1. その瞬間に最適化する
  2. 情報をパッケージ化する
  3. 伝達経路をデザインする

最近はあまり聞かなくなりましたが、2010年代前半のウェブ領域では、モバイルファーストという言葉がバズワード化していました。これは従来のようにPCを中心ではなく、スマートフォンやタブレットなどのモバイルを中心に設計しましょう、という考え方です。多くの場合、スマートフォンの小さな画面にUI(User Interface)を最適化することだけを指して使われていましたが、本来はそうではありません。情報検索や購買などのあらゆる行動がモバイルを起点に行われるため、ユーザー体験(User Experience:UX)そのものをモバイル中心に再設計するという意味です。

スマートフォンはユーザー行動を劇的に変えましたが、その最たるものは、どこにいようと何かしたいと思ったその瞬間に行動をするというものです。例えば、スターバックスで流れている音楽が気になったその瞬間に曲名を調べ、そのまま購入するというようなことです。その瞬間のことをGoogleはマイクロモーメント(Micro Moment)と呼び、これに最適化することの重要性を示唆しました。さきほどの例でいうと、曲名を調べてそのまま購入するという流れに登場しない情報はすべて無視されることになります。検索エンジンに対してキーワードを最適化することを検索エンジン最適化(Search Engine Optimization:SEO)といいますが、どんなキーワードで検索するかはその瞬間により異なりますし、もはやキーワードで検索するとも限りません。ユーザーのその瞬間の検索行動に最適化することを検索体験最適化(Search Experience Optimization:SXO)といいます。

情報検索や購買のあとは、その体験がさまざまな形で共有されます。スターバックスの新しいフラペチーノの情報を見たり体験したあとは、公式サイトの情報や自ら撮影した写真が、Instagramを通して共有されるわけですが、これもその瞬間に刹那的に行われ、情報は断片化されます。文字にして数十文字、あるいは写真だけが切り取られるため、そこに情報をパッケージ化して詰め込むことが重要です。たとえSNS映えするビジュアルでも、発信したい情報が盛り込まれなければ情報設計としては失格です。

さらに、情報の伝達経路をデザインすることも必要です。SNSを経由しての情報の検索性や発見性を高めるには、伝達力が強く、正確かつ的確に伝えてくれるインフルエンサーは極めて重要な存在となります。彼ら彼女らにとって、どのような情報が「つい教えたくなる」かを見極め、適時適切に提供することが求められます。

5G・IoT時代の情報設計。

では、来たるべき5G・IoT時代の情報設計とは、いったいどのようなものになるのでしょうか。

あらゆるモノがインターネットにつながり、IoTデバイス(IoT Device)となります。そして4Gの100倍の通信速度となる次世代通信規格5Gにより、情報がリアルタイムに処理され、自動運転や遠隔手術などが実現されると言われています。

流通する情報は、テキストや画像を中心としたものから、動画や音声など多様化しつつあります。音声による情報検索は、2009年にGoogleが提供開始し、2011年にはiPhoneのSiriが登場、2017年にはAmazon Echoなどのスマートスピーカーが一般家庭に普及し始めています。これからは耳に装着したごく小さな端末で、音声のみによる情報のやりとりが可能となります。音声検索最適化(Voice Search Optimization:VSO)の意義は数年前から提言されていますが、いよいよ向き合うべき時が来ています。

また、動画顔認証の実現により、非接触ICによる認証が不要になります。さらに、3Dホログラムと呼ばれるレーザーと特殊フィルムを使った立体映像技術により、ディスプレイなしで視覚情報を得られるようになるかもしれません。

これらの技術革新の先には、スマートフォンが不要になることも考えられます。いまの生活からは想像しがたいことですが、ほんの十数年前には存在しなかったわけですから、近い将来に存在していなくても不思議ではありません。

あらゆるモノがIoTデバイスになることで、何かしたいと思ったその瞬間から行動までの時間、つまりマイクロモーメントはさらにマイクロ化するでしょう。スマートフォンをポケットから取り出し、画面をタッチする時間すら不要になります。

また、流通する情報がテキスト・画像・動画・音声など多様化する一方で、現在はスマートフォンに集約されている情報接点が、さまざまなIoTデバイスに分散されることで、情報の断片化がさらに進む可能性があります。スターバックスの新しいフラペチーノの体験が、音声のみで共有されるかもしれません。はたしてその魅力を音声情報にパッケージ化できるでしょうか。「SNS映え」も、ビジュアルだけでなく、音声やテキストによる「映え」の演出が必要になるかもしれません。

5GとIoTは、SNSとスマートフォン以上にユーザー行動を劇変させる可能性を秘めています。モバイルファーストならぬIoTデバイスファーストなる言葉が生まれるかもしれません。情報の形態や接点が多様化する中で、情報設計の存在意義は失われるどころか、その難易度と重要性が増すことは間違いないでしょう。われわれ情報アーキテクトは、新しい時代を生き抜くためにも、いまからその準備をしておく必要があります。

脚注   [ + ]