UXグロース入門 #01

データ駆動によるUX向上。

グロースハック(Growth Hack)とは「いまさら聞けないグロースハック」でも触れたとおり、ユーザーの体験全体を最適設計するUXデザイン(UX Design)と、その向上にむけたPDCAをデータに基づいて推進するデータサイエンス(Data Science)の両輪を回すことで商品やサービスを成長させる活動のことを言います。グロースハックが注目される背景には、従来型マーケティングから、生活者の価値観に合わせて、購買に関わるあらゆる場を全体最適化する、データ駆動型のマーケティングへと変化していることがあります。

ちなみに最近ではグロースハックではなく、単にグロース(Growth)と呼ぶことも増えてきており、これはハック(Hack)が、ライフハックなどの言葉に使われるとおり「物事を効率的にするためのちょっとしたコツ」というニュワンスを持っているため、より広範な責任をもつ役割の呼称として相応しくないからかもしれません。

ここではデータ駆動によるUX向上に焦点を当てたグロースハックをUXグロース(UX Growth)と呼ぶことにし、その実践にむけた入門編をご紹介したいと思います。

大きなPDCAと小さなPDCA。

UXグロースを進める上では、大きなPDCA小さなPDCAの二つのプロセスの存在を理解することが重要です。PDCAはご存知のとおり、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)の頭文字をとったものです。

大きなPDCA(Big PDCA)とは、UXの全体最適を目的に、数ヶ月から数年単位で回すPDCAサイクルのことを言います。たとえばECサイトの場合であれば、ユーザーの生涯価値(Lifetime Value:LTV)を向上するために、年単位での購買傾向を分析しながら、継続的に購入してもらうためのUXを設計あるいは改善していくような取り組みになります。大きなPDCAの評価期間は長く、成果が確認されるまでに時間がかかります。

一方で小さなPDCA(Small PDCA)とは、より細分化されたUXの個別最適を目的に、数日から数週間単位で回すPDCAサイクルのことを言います。たとえばECサイトの場合であれば、初回購買や会員獲得、あるいは二回目購買などのそれぞれの個別の目的に対してUXを設計あるいは改善していくような取り組みになります。小さなPDCAの評価期間は短く、成果を早く確認することができます。

  大きなPDCA 小さなPDCA
目的 全体最適 個別最適
PDCA期間 長期
数ヶ月から数年
短期
数日から数週間
評価者 責任者 担当者

一般的にグロースハックと言えば小さなPDCAが想起されますが、それはABテストなどの象徴的な手法がそのためのものであるからでしょう。しかしながら、詳細は後述しますが、小さなPDCAだけではUXグロースはうまく行きません。それが大きなPDCAの一環であると理解する必要があります。

小さなPDCAのための因果推論。

先ほど小さなPDCAのための象徴的な手法であるABテストについて触れましたが、これは「いまさら聞けない因果推論」でも触れたとおり、正式にはランダム化比較実験(Randomized Controlled Trial:RCT)というもので、因果推論の代表的な手法です。因果推論(Causal Inference)とは二つの事象間に因果関係があるかどうかを明らかにするための考え方や手法を言います。

単に成果の有無を評価するだけであれば因果関係を理解する必要はありません。しかしがなら継続的に成果を生むには、評価後に再現または改善のアクションを行う必要があり、それには因果関係を理解する必要があります。なぜ売上が上がったのか、あるいは下がったのか。結果の良し悪しに関わらず、その原因を特定することで、良い結果の再現悪い結果の改善につなげることが可能となります。

次回以降では、大きなPDCAから小さなPDCAに落とし込み、ABテストによる実験・評価・改善アクションを行う実践的なメソッドを、具体的なケースを交えて紹介します。