再考するパーソナライゼーション

多様性に対して個別に最適化する。

経済発展にともない、生活者の価値観は多様化します。また、高齢化により身体的な能力のばらつきが顕著になります。さらに、グローバル化によりさまざまな文化・言語・国籍が交わることになります。そのような背景で登場したのがユニバーサルデザイン(Universal Design)1)再考するユニバーサルデザインで、文化・言語・国籍や年齢・性別などの違い、障害の有無や能力差などを問わずに利用できることを目指した建築・製品・情報などのデザインをさします。

一方で、誰もが使いやすいデザインというのは理想主義であり、逆に多様性を許容せずに規格にしばりつけるものである、という批判もあります。パーソナライゼーション(Personalization)は、多様性に対して個別に最適化する考え方であり、ユニバーサルデザインの対義語でもあり、補完するものでもあります。

とりわけ、あらゆる情報がウェブサイトやモバイルアプリで取得可能となり、多くの券売機やATMの操作パネルがタッチパネル化されるなど、ユーザーインターフェース(User Interface:UI)のデジタル化が進むことで、パーソナライゼーションの可能性は広がっています。

今後、UIのデジタル化がますます加速し、さらに5GとIoTの普及が進んだ先に、パーソナライゼーションのもつ意義はどのようになっていくのでしょうか。ここで再考してみたいと思います。

パーソナライゼーションの光と影。

パーソナライゼーションがもっとも進んでいる領域は電子商取引(Electronic Commerce:EC)でしょう。Amazon.comをはじめとする多くのECサイトでは、ユーザーの購買履歴から嗜好性を分析することで、高精度なレコメンデーションを実現しています。

また、パーソナライズ化されたマーケティングを1to1マーケティングといいますが、それを実現する基盤であるマーケティングオートメーション(Marketing Automation:MA)の登場以来、マーケティング領域でもパーソナライゼーションが進んでいます。

1to1マーケティングは、マスマーケティングの対義語で、文字通り一人ひとりの嗜好性や行動特性に最適化した個別のマーケティング施策を行うことで効果を最大化するアプローチです。とはいえ、無数の施策を人間が実施することは事実上不可能であり、自動化が必要です。MAはそのための基盤となります。

1to1マーケティングを実現する環境が整う一方で、実際に個別の施策を展開するのは難しい問題です。何が最適かを分析するための高精度なデータと分析技術が必要ですし、何よりも個別の施策を展開するためのコストが必要です。個々の施策のクオリティが下がれば、かえってユーザー体験を損ねることになります。安易なパーソナライゼーションに持続性はありません。普遍性と個別性をうまく使い分けることが求められます。

5G・IoT時代における進化と意義。

パーソナライゼーションの進化が、ECとマーケティングの領域で先行した背景として、ウェブサイトやモバイルアプリの存在があります。そもそもがデジタルのUIであるため、パーソナライゼーションの実現や、それを支える行動データの収集が容易であったためです。ただ、5GとIoTがその状況を変化させると考えられます。

すでに活況しているのが、商品・サービスのパーソナライゼーションです。資生堂ジャパンは、今の自分に最適な化粧品を自宅で調合するスキンケアシステム「Optune(オプチューン)」を開発しており、無料お試しイベントが2018年6月に二子玉川の蔦屋家電にて開催されました。肌チェックから最適な化粧水を調合してくれるサービスはすでに存在しましたが、Optuneの画期的な点は、肌チェックと化粧品の調合が自宅でできることにより、まさに「今この瞬間」の肌に最適な化粧品を利用可能にしたところです。

出典:資生堂ジャパン

また、ECサイト大手のZOZOTOWN(ゾゾタウン)は、ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)により自宅にいながら自分で簡単に採寸し、その体型データをもとに完全オーダーメードのビジネススーツを注文できるサービスを提供開始しています。

このほか、公共の場のモノや情報のパーソナライゼーションが進む可能性もあります。ソニー・ミュージックコミュニケーションズは、カメラに映る人の顔を認識し、性別・年齢・表情を識別することで、デジタルサイネージ(電子看板)に表示する情報を最適化する「MITENE(ミテネ)」というサービスを展開しています。

このように、従来は実現が難しかったパーソナライゼーションが、技術革新により可能になりつつあります。とはいえ、すべてのモノをパーソナライズすることは不可能ですし、たとえ技術的に可能であっても、コスト的に見合わないことがほとんどでしょう。1to1マーケティングと同様、普遍性と個別性をうまく使い分けることが、やはり求められると思います。

パーソナライゼーションの本来の意義は、普遍性では対応できない多様性に応えることです。それは5GやIoTが普及したこの先も変わることはないでしょう。

脚注   [ + ]