パターンランゲージって?

都市はツリーではない。

パターンランゲージ(Pattern Language)は、建築家のクリストファー・アレグザンダーが提唱した建築や都市計画に関する理論で、単語が集まることで生きた文脈が生まれるように、物質的要素のパターンが集まってランゲージとなり、それが生きた都市を形成する、というものです。

アレグザンダーは1965年に発表した論文「都市はツリーではない」で、長い年月をかけて自然にできあがった自然都市は、互いに関係をもつ物質的要素の集合が重なり合うセミラティス構造(Semi Lattice Structure)であり、人工都市は、集合の重なり合いをまったく持たないツリー構造(Tree Structure)であると説明しました。ちなみにラティスとは「格子」の意味です。またそれにより、自然都市にそなわった豊な人間性が、人工都市では失われると指摘しています。

そして、より自然都市の構造に近い複雑なセミラティス構造を設計するために、パターンランゲージという手法を考案しました。ちなみに、情報設計(Information Architecture:IA)1)再考する情報設計観点でとらえると、セミラティス構造は「タグ」で、ツリー構造は「カテゴリ」となります。

階段なのか、ベンチなのか。

あまりに有名なローマのスペイン広場の写真で考えてみましょう。中央の階段状の物質的要素は、移動したい人にとっては文字通り「階段」ですが、休憩したい人にとっては「ベンチ」となっています。情報設計的には「階段、ベンチ」の二つのタグづけがされている状態で、構造設計的には{移動、通路、階段}の集合{休憩、広場、ベンチ}の集合が重なり合うセミラティス構造になっています。

これにより、移動手段として「階段」を利用している人が、休憩に「ベンチ」として使えることに気づき、やがてお気に入りの広場となっていく。そんな物語が描かれるかもしれません。これはツリー構造では生まれない価値です。ただ、現代の建築や都市計画では、このようなセミラティス構造が意図的に設計されています。

言葉でも考えてみましょう。「この肉、やばい」と聞いて、どんな意味を想像するでしょうか。「この肉、すごく変色している」なのか、それとも「この肉、すごく美味しい」なのか。これは前後の文脈によって意味がかわります。あるいは、そもそも「やばい」は否定的な意味で使う言葉ですが、最近では肯定的な意味でも使われ、辞書にも記載されるようになりました。もしかしたら、年代によって解釈が変わるかもしれません。

情報設計的には「変色、美味」の二つのタグづけがされている状態で、構造設計的には{年配、腐敗、変色}の集合{若者、熟成、美味}の集合が重なり合うセミラティス構造といえます。もっとも腐敗肉と熟成肉は相容れないため、実際に重なり合うことはありません。

パターンランゲージの応用。

パターンランゲージは、さまざまな分野で応用されていますが、そのさきがけはソフトウェア工学のオブジェクト指向です。エリック・ガンマらの1995年の著書「オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン」がきっかけとなりました。オブジェクトを再利用可能にしてソフトウエアの開発効率を上げるために、パターンランゲージの手法が採用されています。

そのほか、ウェブサイトの情報設計にも応用されています。情報設計の起源は図書館学(Library Science)ですが、本という物理的な物体が、いずれか一意の物理的な棚(カテゴリ)に配置する必要があるのに対し、ウェブページという論理的な情報は、複数の任意の論理的な札(タグ)を付与することが可能です。

ちなみに、このuxmeetsdata.comもセミラティス構造になっています。たとえば「データエスノグラフィって?」という記事は、集合|UX|の一員でもあり、集合|Data|の一員でもあります。ただ、カテゴリとしては一意とする構造なので、「Data EthnographyUX Modeling」という、UXとデータのそれぞれに関連する二つのタグをつけることで表現しています。UXに関心のある読者がデータエスノグラフィを通してデータに関心を持つようになれば、新しい価値の創発につながるはずです。

さらには「データエスノグラフィって?」でも触れたとおり、ユーザー行動が「思考と行動の集合」パターンが集まったランゲージだとすれば、ユーザーの行動データから、思考を類推できる可能性があります。アレグザンダーは人々が「心地よい」と感じる都市・建築を分析して、253のパターンを挙げました。はたして、思考と行動の集合はいったいどのくらいのパターンに抽象化されるのでしょうか。

脚注   [ + ]